この記事で分かること
- 退職金規程の有無と計算式の確認方法
- 支給額算出に必要な勤続年数・平均給与の扱いと具体例
- 支払い手続きに必要な書類と源泉徴収の流れ
- 書類の保管期間と税務調査時のポイント
1. 退職金規程の有無と計算根拠の確認(3つのチェック項目)
退職金を支給するかどうかは、就業規則や別途定めた退職金規程に明記されているかが判断の起点になります。規程がない場合は支給義務が生じないケースが多い一方、規程がある場合はその内容に従うことが一般的です。
確認の流れは以下の3点です。
- 就業規則・退職金規程の最新版を入手する
- 作成日・改定日・従業員代表の意見聴取記録の有無をチェック
- 厚生労働省モデル就業規則の該当条文と照合し、記載漏れがないかを確認
- 計算式・対象者の範囲・支給要件を抜粋する
- 例:「最終月額基本給×勤続年数×係数(1.0–1.5)」など
- 支給対象を「正社員のみ」「アルバイト含む」など範囲で分けて記載しているかを確認
- 過去の支給実績と規程内容に整合性があるかを確認
- 支給事例が3件以上ある場合は、規程外の運用が慣行化していないかを確認
- 支給額が規程の1.2倍を超える事例が複数ある場合は、追加の根拠資料を残しておく
※具体例は店舗の契約内容・状況により異なります。
2. 支給額算出の基本パターンと計算例(相場レンジ付き)
退職金の計算式は店舗により異なりますが、飲食店でよく見られるパターンを3つ挙げます。
| パターン | 計算式の例 | 勤続15年・月額基本給30万円の場合の目安 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 基本給連動型 | 基本給×勤続年数×1.0 | 450万円 | 最もシンプル |
| ポイント制 | 1年あたり10ポイント×累計ポイント×単価3,000円 | 450万円 | 昇給反映しやすい |
| 定額+加算 | 定額20万円+(基本給×勤続年数×0.5) | 245万円 | 中小規模店で採用例あり |
計算に必要な数値は以下の通りです。
- 勤続年数:入社月から退職月までの月数を12で除した値(端数処理は規程による)
- 平均給与:退職前3カ月または6カ月の基本給平均(賞与・手当の扱いは規程確認)
- 係数:1.0–2.0程度で、役職・功労加算がある場合は別途加算
計算例(基本給連動型・勤続15年・月額30万円):
30万円×15年×1.0=450万円
勤続年数別の目安金額(基本給連動型・月額基本給30万円・係数1.0の場合)は以下の通りです。
| 勤続年数 | 目安金額 | 備考 |
|---|---|---|
| 5年 | 150万円 | 短期間で退職する場合の参考 |
| 10年 | 300万円 | 標準的な中堅層 |
| 15年 | 450万円 | ベテラン層の水準 |
| 20年 | 600万円 | 長年勤務者の目安 |
※具体例は店舗の契約内容・状況により異なります。
3. 退職金支払い時の税務手続きと源泉徴収の流れ(6つの手順)
退職金を支払う場合、所得税法上の「退職所得」として源泉徴収を行う必要があります。手続きは以下の順序で進めます。
- 退職所得の受給に関する申告書(退職所得申告書)の提出確認
- 従業員から提出がない場合は、退職所得控除を適用せず20.42%源泉徴収
- 提出期限は退職金支払い日の前日までが一般的
- 退職所得の金額を計算
- (収入金額−退職所得控除額)×1/2
- 退職所得控除額:勤続20年以下は40万円×年数、20年超は800万円+70万円×(年数−20)
- 税率表に基づき所得税額を算出
- 195万円以下:5%、195万円超330万円以下:10%など
- 退職所得は他の所得と分離して計算するため、税率は退職所得のみで判定
- 源泉徴収税額を差し引いた金額を退職者に支払う
- 支払日は給与締め日と重ならないよう調整すると事務負担が軽減
- 支払った月の翌月10日までに納付書で税務署へ納付
- e-Taxを利用する場合は、納付期限の3日前までに手続きを完了
- 支払い後1カ月以内に「退職金支払報告書」を市区町村へ提出(地方税)
- 提出先は退職者の居住地の市区町村役場
納付期限を過ぎると延滞税が発生する可能性があるため、支払い予定日を事前に把握しておくことが重要です。
4. 書類の作成・保管期間と税務調査時の対応
退職金に関する書類は、税務調査や労働基準監督署の確認に備えて一定期間保管する必要があります。
- 退職金規程:廃止後3年間(労働基準法第109条の賃金台帳に準じた扱い)
- 退職所得の受給に関する申告書:支払った年の翌年1月から7年間(国税通則法)
- 源泉徴収簿・支払調書控え:同上7年間
- 退職金支払報告書(市区町村提出分):提出後5年間程度
保管場所は、就業規則一式とまとめて施錠棚に保管し、廃棄時はシュレッダー処理が一般的です。
税務調査で確認されやすいポイントは以下の3点です。
- 規程に記載のない加算金の根拠
- 勤続年数の計算根拠(入社日・退職日の証明)
- 源泉徴収税額の計算誤り
保管チェックリスト(退職金関連書類)
- 退職金規程(最新版・旧版)
- 退職所得の受給に関する申告書(提出日・受領印付き)
- 源泉徴収簿(支払月・税額・納付日を記載)
- 支払調書控え(税務署提出分・市区町村提出分)
- 退職金支払報告書(市区町村提出日・控え)
- 株主総会・取締役会議事録(役員退職金の場合)
※具体例は店舗の契約内容・状況により異なります。
5. オーナー自身が受け取る場合の確認ポイント
オーナー自身が退職金を受け取る場合は、法人からの支給として「役員退職金」の扱いになります。
- 株主総会または取締役会の決議が必要なケースが多い
- 事前確定届出給与に該当しないよう、支給時期・金額を事前に税理士等へ確認
- 法人税法上の「不相当に高額な退職金」とみなされないよう、類似規模の同業他社の支給水準を参考にする
役員退職金の相場目安(飲食店・売上規模別)は以下の通りです。
| 売上規模 | 役員退職金の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 3,000万円未満 | 300–600万円 | 小規模店舗の参考 |
| 3,000–5,000万円 | 600–1,000万円 | 中規模店舗の水準 |
| 5,000万円以上 | 1,000–2,000万円 | 複数店舗運営の場合 |
支給の可否・金額は、役員在任期間・功労度・類似事例との整合性を踏まえて判断することが一般的です。
※具体例は店舗の契約内容・状況により異なります。
6. 退職金規程の見直しを検討する場合の進め方
規程の内容が現在の店舗規模と合わなくなった場合は、以下の手順で改定を検討できます。
- 現行規程の問題点をリストアップ(計算式の複雑さ、係数の高さなど)
- 改定案を作成し、従業員代表の意見を聴取
- 改定版を周知し、施行日を明記
- 旧規程は廃止日を記載した上で3年間保管
改定時には「既存従業員の既得権をどう扱うか」を事前に整理しておくと、後のトラブルを減らせます。
規程改定チェックリスト
- 改定理由の文書化(店舗規模縮小・業態変更など)
- 従業員代表への意見聴取日・内容の記録
- 新旧対照表の作成(変更箇所の明示)
- 施行日・経過措置の明記
- 周知方法(掲示・配布・メール等)の決定
- 保管場所の確保(旧規程含む)
よくある質問
退職金は必ず支払わないといけないのでしょうか
退職金規程に支給要件が定められている場合は、その要件を満たした従業員に対して支給を検討する必要があります。規程がない場合は、支給の義務が生じないケースが多いため、就業規則と過去の運用実績を確認してください。
退職所得の受給に関する申告書を提出しなかった場合はどうなりますか
申告書が提出されない場合、退職所得控除を適用せずに源泉徴収されるため、税額が増える可能性があります。後日確定申告で還付を受けられるケースもありますが、事前に提出を促すことが一般的です。
退職金の計算に賞与や手当を含めてもよいですか
規程に「基本給のみ」と明記されている場合は含めず、「総支給額」と記載されている場合は含めるケースがあります。計算前に規程の文言を再確認してください。
退職金を分割で支払うことは可能ですか
規程に分割払いの定めがない場合は、一括払いが原則です。分割を検討する場合は、従業員の同意を得た上で、税務上の扱いを税務署や専門家に確認することをおすすめします。
退職金規程を廃止した場合、既存従業員への影響はありますか
規程廃止の効力は、廃止日以降に新たに発生する退職には及びますが、廃止日時点で既に権利が発生している従業員については、従前の規程が適用されるケースが多いため、個別に確認が必要です。